サプライチェーン脱炭素を加速!中小企業のためのカーボンクレジット/オフセット実践ガイド
サプライチェーン脱炭素推進におけるカーボンクレジット/オフセットの可能性
基本的な省エネ対策は多くの企業で進められています。次のステップとして、自社の事業活動だけでなく、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減が求められる時代となりました。特に、中小企業にとってサプライヤーや顧客を含むScope 3排出量の算定と削減は、非常に複雑で大きな課題となりがちです。
このような状況において、カーボンクレジットやカーボンオフセットといった仕組みは、サプライチェーン全体の脱炭素を補完・加速させる有効な手段として注目されています。本記事では、中小企業がカーボンクレジットやオフセットをどのように活用できるのか、その仕組みやメリット、実践上の注意点について解説します。
カーボンクレジット/カーボンオフセットとは
カーボンクレジット、またはカーボンオフセットとは、自社の事業活動を通じて発生したCO2排出量を、他の場所で行われた排出削減・吸収活動によって相殺(オフセット)する仕組みです。具体的には、森林の保全・育成、再生可能エネルギーの導入、省エネルギー設備の導入といったプロジェクトから生まれるCO2排出量の削減量・吸収量を「クレジット」として認証し、取引可能にしたものです。
主な種類としては、国内の「J-クレジット制度」や、海外の様々な認証基準に基づくクレジットなどがあります。これらのクレジットを購入し、自社の排出量と相殺することで、「カーボンニュートラル」を主張することが可能となります。
中小企業がカーボンクレジット/オフセットを活用するメリット
中小企業がカーボンクレジットやオフセットをサプライチェーン脱炭素に活用することには、いくつかのメリットが考えられます。
- Scope 3排出量削減への貢献: サプライヤーや顧客の排出量削減を直接働きかけることが難しい場合でも、信頼性の高いカーボンクレジットを活用することで、サプライチェーン全体の排出量削減目標達成に貢献できます。例えば、特定の製品やサービスのライフサイクル全体での排出量をオフセットし、「カーボンニュートラル製品/サービス」として提供することが可能です。
- 脱炭素への取り組み姿勢の可視化: クレジットの活用は、企業が脱炭素に対して積極的に取り組んでいる姿勢を示すことにつながります。これは、取引先や顧客からの信頼獲得、企業イメージ向上に寄与します。
- 新たなビジネス機会の創出: カーボンニュートラルな製品やサービスは、環境意識の高い消費者や企業からの需要が高まっています。クレジットを活用することで、このような市場での競争力を高めることができます。
- 従業員のエンゲージメント向上: 脱炭素への具体的な取り組みは、従業員の環境意識を高め、企業への貢献意欲や誇りを醸成する効果も期待できます。
カーボンクレジット/オフセットの具体的な活用シーンと実践方法
1. 自社事業の補完としての活用
まずは自社のScope 1(直接排出)およびScope 2(電力使用に伴う排出)の徹底的な削減に努めることが基本です。その上で、どうしても削減しきれない排出量に対して、カーボンクレジットを活用し、自社事業のカーボンニュートラル化を目指すことが考えられます。
2. 製品・サービスのカーボンニュートラル化
特定の製品やサービスの製造・輸送・使用・廃棄といったライフサイクル全体(Scope 3の一部を含む)で発生する排出量を算定し、その排出量に見合うカーボンクレジットを購入・充当することで、その製品・サービスをカーボンニュートラルとして販売できます。これは特に、顧客への訴求力が高い取り組みとなります。
3. イベントや活動のオフセット
特定のイベント(展示会出展、社内イベントなど)や、出張・物流といった活動に伴う排出量を算定し、オフセットすることも可能です。小規模から始められるため、カーボンクレジット活用の第一歩として取り組みやすい方法です。
実践方法のステップ
- 排出量の算定: オフセットしたい対象(自社全体、特定製品、特定活動など)のCO2排出量を正確に算定します。Scope 3を含める場合は、対象範囲と算定方法を明確にします。
- 削減努力: オフセットに頼るだけでなく、可能な限りの排出削減努力を行います。
- クレジットの選定: 信頼できる認証プログラム(J-クレジットなど)や、自社の取り組み姿勢に合ったプロジェクト(森林保全、地域貢献など)からクレジットを選びます。プロジェクトの追加性(クレジット収入がなければ実現しなかったプロジェクトであること)や透明性が重要です。
- クレジットの購入: 選定したクレジットを購入します。取引市場や仲介事業者を通じて購入するのが一般的です。
- オフセットの実行と情報公開: 購入したクレジットを自社の排出量と相殺(無効化)します。取り組み内容やオフセット量を社内外に適切に報告・公開します。透明性をもって情報を提供することが、信頼性確保のために不可欠です。
カーボンクレジット/オフセット活用の注意点
カーボンクレジット/オフセットは有効なツールとなり得ますが、いくつかの注意点があります。
- 「グリーンウォッシュ」リスク: オフセットはあくまで補完策であり、自社の排出削減努力なしにオフセットだけで「カーボンニュートラル」を謳うことは、実態が伴わない「グリーンウォッシュ」(見せかけの環境配慮)と批判されるリスクがあります。まずは徹底した排出削減に取り組む姿勢が重要です。
- クレジットの信頼性: プロジェクトの実効性や排出量削減効果の正確性、ダブルカウント(同じ削減量が二重にクレジット化されること)がないかなど、購入するクレジットの信頼性を十分に確認する必要があります。信頼できる認証制度を通じたクレジットを選択することが重要です。
- 価格変動と継続性: カーボンクレジットの価格は市場原理や政策によって変動する可能性があります。継続的にオフセットを続ける場合、価格変動リスクも考慮する必要があります。
- 専門知識の必要性: 排出量算定やクレジットの選定・購入、情報公開など、専門的な知識や手続きが必要となる場合があります。必要に応じて外部の専門家やコンサルタントの支援を検討することも有効です。
まとめ
中小企業がサプライチェーン全体での脱炭素を目指す上で、カーボンクレジット/オフセットは戦略的なツールとなり得ます。自社の排出削減努力を基本としつつ、これを補完・加速させる手段として、信頼性の高いクレジットを適切に活用することで、取引先や顧客からの信頼獲得、新たなビジネス機会の創出、そして競争力の強化につなげることが期待できます。
カーボンクレジット/オフセットの活用にあたっては、仕組みを正しく理解し、信頼性、透明性、そして自社の削減努力とのバランスを常に意識することが重要です。これを機に、カーボンクレジット/オフセットの活用をサプライチェーン脱炭素戦略の一環として検討してみてはいかがでしょうか。