競争力強化と信頼性向上へ!中小企業のための脱炭素経営外部評価・認証ガイド
脱炭素経営における外部評価・認証の重要性
中小企業の脱炭素経営は、単なるコスト削減や法規制への対応だけでなく、企業の競争力を高め、新たな事業機会を創出するための重要な経営戦略となりつつあります。基本的な省エネ対策やCO2排出量の算定・可視化を進めた次のステップとして、自社の取り組みを客観的に評価し、その信頼性を高める手段として、外部評価や認証制度の活用が注目されています。
外部評価や認証を取得することは、ステークホルダー(顧客、取引先、金融機関、従業員など)からの信頼獲得につながり、企業価値の向上に貢献します。特に、大企業のサプライチェーンにおいて脱炭素への取り組みが強く求められる中、外部からの評価は重要なアピールポイントとなります。
中小企業が活用できる主な外部評価・認証制度
脱炭素経営に関連する外部評価や認証制度にはいくつかの種類があり、それぞれ目的や対象範囲、難易度が異なります。中小企業が無理なく、しかし確実にステップアップするために、代表的な制度とその特徴を理解することが重要です。
エコアクション21
- 概要: 環境省が策定した日本独自の環境マネジメントシステム(EMS)規格です。中小企業が取り組みやすいように設計されており、環境への目標設定、計画策定、実施、チェック、見直しというPDCAサイクルを通じて、継続的な環境負荷削減を目指します。
- 特徴: 幅広い業種の中小企業が取得しており、CO2排出量だけでなく、廃棄物や水の使用量など、様々な環境負荷項目に対応しています。認証取得には審査があり、定期的な維持審査も必要です。
- 中小企業にとってのメリット: 比較的取り組みやすい、認知度が高い(特に国内)、包括的な環境経営体制が構築できる、サプライヤーとしての信頼性が向上する。
ISO 14001(環境マネジメントシステム)/ ISO 50001(エネルギーマネジメントシステム)
- 概要: 国際標準化機構(ISO)が定めた国際規格です。ISO 14001は環境全般、ISO 50001はエネルギー管理に特化しています。
- 特徴: 国際的に広く認知されており、グローバルな取引がある企業にとっては特に有効です。認証取得には専門的な知識やリソースが必要となる場合がありますが、自社のマネジメントシステムを体系的に構築・改善する上で非常に強力なツールとなります。
- 中小企業にとってのメリット: 国際的な信頼性が高い、大規模な取引先からの要求に対応できる、組織全体のマネジメントレベル向上に貢献する。
Science Based Targets (SBT)
- 概要: パリ協定が目指す「世界の平均気温上昇を産業革命前と比べ1.5℃に抑える」という目標達成に向けて、企業が設定する温室効果ガス削減目標が、科学的根拠に基づいていることを認定するイニシアティブです。中小企業向けのSBT(SBT for SMEs)も用意されています。
- 特徴: 非常に意欲的な目標設定が求められますが、先進的な脱炭素経営に取り組む企業として高い評価を得られます。Scope 1, 2だけでなく、Scope 3(サプライチェーン排出量)を含めた目標設定が推奨されます。
- 中小企業にとってのメリット: 脱炭素への高いコミットメントを示すことができる、先進的な企業イメージを構築できる、将来的な規制強化や市場の変化に対応しやすくなる。
その他の評価・開示フレームワーク
- CDP: 企業や都市の環境情報開示を推進する国際的な非営利団体です。大企業がサプライヤーに環境情報(CO2排出量など)の開示を求める際にCDPのフレームワークが利用されることがあります。中小企業自身が回答主体となることは少ないですが、サプライチェーンの一員として対応が求められる場合があります。
- TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース): 企業に対し、気候関連のリスクと機会に関する情報を開示することを推奨する国際的な枠組みです。金融機関などが投融資判断の際に参考にします。中小企業が直接開示を求められることは少ないですが、資金調達や投資を受ける際に情報開示が有利に働く可能性があります。
外部評価・認証取得に向けた具体的なステップ
外部評価や認証の取得は、計画的に進めることで無理なく行うことが可能です。一般的なステップは以下の通りです。
- 目的と制度の選定: なぜ外部評価・認証が必要なのか(取引先からの要求、信頼性向上、競争力強化など)を明確にし、自社の規模、業種、目的に合った制度を選定します。エコアクション21は最初の一歩として取り組みやすい選択肢の一つです。
- 現状把握と体制構築: 現在の環境負荷やエネルギー使用状況を把握します。各制度の要求事項に基づき、推進体制を構築し、目標設定、計画策定を行います。ITツールを活用したデータ収集・可視化は、この段階で非常に有効です。
- 必要なデータ収集と文書化: CO2排出量などの各種環境データを収集・集計し、記録します。取り組み内容や手順を文書化することも求められます。正確なデータ収集は、以降の効果測定や報告の基盤となります。
- 内部監査・自己評価: 策定した計画通りに進んでいるか、要求事項を満たしているかを自社内で確認します。不備があれば改善を行います。
- 申請と外部審査: 選定した制度の認証機関等に申請し、外部の審査員による審査を受けます。審査では、構築したシステムや取り組み内容、データなどが要求事項に適合しているかが確認されます。
- 認証取得と運用・改善: 審査に合格すれば認証が取得できます。認証取得後も、継続的な運用と定期的な見直し・改善が必要です。通常、年次審査や数年ごとの更新審査があります。
外部評価・認証取得による効果と留意点
外部評価・認証の取得は、企業の脱炭素経営を次のレベルへ引き上げるための強力な推進力となります。
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効果:
- 信頼性・透明性の向上: 第三者機関の評価により、自社の取り組みの客観的な信頼性が高まります。
- 競争力の強化: 大企業との取引で有利になる、新たな顧客獲得につながるなど、ビジネス機会が増加する可能性があります。
- 資金調達への好影響: 環境への取り組みが評価され、金融機関からの評価向上や、サステナビリティ関連の融資・投資の対象となる可能性があります。
- 従業員の意識向上: 全社的な取り組みとして推進することで、従業員の環境意識が高まり、企業文化の醸成につながります。
- 継続的な改善体制の構築: マネジメントシステムを構築することで、脱炭素だけでなく、業務全体の効率化やリスク管理にもつながります。
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留意点:
- コストと工数: 認証取得には、審査費用やコンサルティング費用、社内での準備にかかる時間と人的リソースが必要です。
- 維持管理の負担: 認証を維持するためには、定期的な内部・外部審査や日々の運用、データ管理が継続的に必要となります。
中小企業がこれらの負担を無理なく乗り越えるためには、既存業務との連携を意識したり、ITツールを効果的に活用したり、必要に応じて外部の専門家や支援制度(補助金など)の活用を検討することが有効です。
まとめ
脱炭素経営における外部評価や認証は、単なる形式的なものではなく、企業の信頼性を高め、競争力を強化し、持続的な成長を実現するための戦略的な取り組みです。エコアクション21やSBT中小企業版など、自社の規模や状況に合った制度を選択し、計画的にステップを踏むことで、中小企業でも無理なく高いレベルの脱炭素経営を目指すことが可能です。
既に基本的な省エネやCO2排出量算定に取り組んでいる企業にとって、外部評価・認証の取得は、これまでの取り組みを体系化し、さらに一歩進んだ脱炭素経営を社会にアピールするための有効な手段となるでしょう。