中小企業のための具体的な脱炭素技術導入ガイド:省エネの次の一手
はじめに:省エネだけでは終わらない脱炭素経営の次のステップ
多くの経営企画担当者様にとって、事業活動におけるエネルギー効率の向上、すなわち省エネは、脱炭素経営の第一歩として比較的取り組みやすい課題です。照明のLED化、古い空調設備の更新などは、既に多くの企業で実施されていることでしょう。しかし、企業のカーボンニュートラル実現や、サプライチェーン全体での排出量削減といった、より高度な目標を目指す場合、省エネだけでは限界が見えてきます。
次のステップとして重要になるのが、事業活動そのものに関わるエネルギー源を非化石燃料へ転換したり、根本的にエネルギー消費のあり方を変えたりする具体的な「脱炭素技術」の導入です。これらの技術は、初期投資が必要となるケースが多いものの、長期的なコスト削減効果や、企業の競争力強化、ブランディング向上に大きく貢献する可能性を秘めています。
この記事では、省エネ対策を一歩進めた中小企業が、次に検討すべき具体的な脱炭素技術の種類や、その導入によって得られるメリット、さらには活用できる支援制度について解説します。
中小企業が検討すべき具体的な脱炭素技術の種類
脱炭素化に貢献する技術は多岐にわたりますが、中小企業が現実的に導入を検討しやすい代表的な技術をいくつかご紹介します。
1. 再生可能エネルギーの自家消費設備(太陽光発電など)
- 概要: 事業所の屋根や敷地内に太陽光発電設備などを設置し、発電した電力を自社内で消費する仕組みです。電力会社からの購入電力量を削減することで、CO2排出量を直接的に削減できます。
- メリット:
- 電力料金の削減によるランニングコスト低減。
- 停電時の非常用電源としての活用(蓄電池併設の場合)。
- 環境配慮企業としての対外的なアピール。
- 検討事項:
- 設置場所の確保(屋根の強度、日照条件など)。
- 初期投資費用と投資回収期間。
- メンテナンスの要否。
- 余剰電力の取り扱い(売電または蓄電)。
2. 高効率な生産設備・産業機械への更新
- 概要: 古いボイラー、工業炉、圧縮機、ポンプなどの産業機械を高効率な最新設備に更新します。これにより、同じ生産量でも使用するエネルギー量を大幅に削減できます。特定の製造プロセスにおいては、電化技術(ヒートポンプ、電気炉など)への転換も有効です。
- メリット:
- エネルギー使用量の削減によるコスト低減。
- 生産性の向上や品質改善につながる場合がある。
- 設備の老朽化対策としても有効。
- 検討事項:
- 設備の選定(事業内容に最適な技術を見極める)。
- 初期投資費用と生産ラインへの影響。
- 従業員の操作習熟。
3. BEMS/FEMS(ビル・工場エネルギー管理システム)の導入
- 概要: 建物(ビルディング)や工場全体のエネルギー使用状況を「見える化」し、データを分析・管理することで、最適な運転管理や改善策を提案・実行するシステムです。各種センサーやIoT技術、クラウド連携などを活用します。IT知識の高い経営企画担当者様にとっては、比較的内容を理解しやすい技術分野と言えます。
- メリット:
- エネルギー使用状況のリアルタイム把握と詳細分析。
- 無駄なエネルギー使用の早期発見と改善。
- 空調や照明などの自動制御による効率化。
- PDCAサイクルを通じた継続的な省エネ・脱炭素活動の推進。
- 検討事項:
- 初期導入費用とシステム構築の複雑さ。
- 既存設備との連携可否。
- データの活用体制構築。
4. 電気自動車(EV)・燃料電池自動車(FCV)と充電インフラの導入
- 概要: 社用車や配送車両などをEVやFCVに置き換え、事業所内に充電設備や水素供給設備を設置します。使用するエネルギー源を化石燃料から電力や水素に転換することで、走行に伴うCO2排出量を削減できます(使用する電力・水素の由来にもよります)。
- メリット:
- 走行時のCO2排出量ゼロ(または大幅削減)。
- 燃料コストの削減(電力料金や水素料金と比較)。
- 環境配慮企業としてのイメージ向上。
- 検討事項:
- 車両価格や充電インフラの初期投資。
- 走行距離や充電時間に関する制約(EVの場合)。
- 充電場所の確保。
- 既存車両からの切り替え計画。
技術導入を後押しする支援制度
これらの脱炭素技術の導入には一定の初期投資が必要となりますが、国や自治体は中小企業の取り組みを支援するための様々な制度を用意しています。既存の資金調達・税制優遇の記事でも触れましたが、ここでは特に「技術導入」に焦点を当てた制度の例を挙げます。
- 補助金制度: 特定の省エネ・脱炭素設備導入に対して、導入費用の一部を補助する制度です。環境省、経済産業省、国土交通省などが実施するもののほか、各自治体独自の補助金もあります。設備の種類や導入規模によって対象となる補助金が異なるため、自社の計画に合った制度を調査することが重要です。
- 税制優遇: 特定の省エネ・脱炭素投資を行った場合に、法人税等の税負担が軽減される制度です。中小企業経営強化税制(先端設備等導入計画)など、脱炭素に資する設備投資を促進する目的の優遇措置があります。
- 融資制度: 日本政策金融公庫などの政府系金融機関や、民間金融機関が提供する、環境配慮型設備投資向けの有利な条件の融資制度です。補助金と併用可能な場合もあります。
- 専門家派遣・コンサルティング支援: 導入計画の策定や、最適な技術選定、申請手続きなどに関する専門家のアドバイスを受けられる支援制度もあります。特に環境・エネルギー分野が専門外の企業にとっては、これらの支援を活用することで、よりスムーズかつ効果的に導入を進めることができます。
これらの制度は募集期間や要件が定められているため、常に最新の情報を確認し、計画的に活用することが成功の鍵となります。
中小企業における技術導入事例(抜粋)
実際に中小企業が脱炭素技術を導入し、成果を上げている事例は数多く存在します。
- 製造業A社(従業員50名): 工場建屋の屋根に太陽光発電設備(100kW)を設置。発電した電力はほぼ全量を自家消費し、年間約15トンのCO2排出量削減を達成。電気料金も削減され、投資回収期間は8年を見込む。国の補助金を活用。
- 運輸業B社(従業員30名): 配送車両の一部をEVに切り替え、事業所に急速充電設備を設置。運行ルートや充電タイミングを最適化し、燃料費削減と排出量削減を実現。初期投資は自治体の補助金と政府系金融機関の融資を活用。
- 食品加工業C社(従業員80名): 旧式の重油ボイラーを高効率なガス焚きボイラーに更新し、合わせてBEMSを導入。燃料使用量と電気使用量を「見える化」し、運用改善を重ねた結果、年間約20%のエネルギーコスト削減とCO2排出量削減を達成。国の省エネ補助金を活用。
これらの事例は、自社の事業規模や特性に合わせて、適切な技術と支援制度を選び、計画的に実行することで、中小企業でも着実に脱炭素化を進められることを示しています。
導入計画の進め方と専門家への相談
具体的な脱炭素技術の導入を進めるにあたっては、以下のステップを参考にしてください。
- 現状把握と目標設定: 自社のエネルギー使用状況やCO2排出量を正確に把握し、どのような技術導入によって、どの程度の削減を目指すのか具体的な目標を設定します。
- 技術選定: 目標達成に最適な技術や設備の候補を挙げ、それぞれのコスト、効果、導入の難易度などを比較検討します。
- 支援制度の調査と活用計画: 活用可能な補助金や税制優遇、融資制度を調査し、資金計画に組み込みます。申請書類の準備なども含め、計画的に進めます。
- 導入計画策定: 設備の設計、施工業者の選定、導入スケジュール、資金調達計画などを具体的に策定します。
- 導入実行と効果検証: 計画に基づき技術導入を実行し、導入後のエネルギー使用量やCO2排出量を測定・分析し、効果を検証します。必要に応じて運用方法の改善などを行います。
これらのプロセスを社内で完結することが難しい場合や、より高度な技術導入を検討したい場合は、専門家(コンサルタント、設備メーカー、設計事務所など)に相談することを推奨します。彼らの知見やネットワークを活用することで、最適なソリューションの選択や、複雑な手続きの支援を得ることができます。
まとめ:技術導入で脱炭素経営を次のレベルへ
中小企業の脱炭素経営は、省エネから始まり、CO2排出量の算定・可視化、サプライチェーン排出量の把握と進んでいきます。その次の重要なステップとなるのが、再生可能エネルギーの導入や高効率設備への更新といった、具体的な「脱炭素技術」の導入です。
これらの技術導入は、初期投資は伴いますが、長期的なコスト削減、事業継続性の向上、そして企業の競争優位性の確立につながる戦略的な投資です。国や自治体の様々な支援制度を賢く活用することで、中小企業でも無理なく、着実に導入を進めることが可能です。
ぜひこの記事でご紹介した情報を参考に、自社の脱炭素経営をさらに一歩進めるための技術導入を具体的にご検討ください。