次の一手!中小企業が脱炭素経営で築くレジリエントな企業体質
企業を取り巻く新たなリスク:気候変動とその影響
基本的な省エネ対策は既に実施されている中小企業も多いかと思います。しかし、脱炭素経営は単なるコスト削減や環境対策に留まらず、企業を取り巻く新たなリスクへの備えとしても重要性が増しています。その代表的なものが「気候変動リスク」です。
気候変動は、異常気象による自然災害の増加、資源価格の変動、新たな規制の導入、サプライチェーンの混乱など、様々な形で企業の事業継続に影響を及ぼす可能性があります。これらのリスクは、企業のレジリエンス(予期せぬ変化や災害に対応し、回復する力)を問うものと言えます。特に中小企業は、大企業に比べて経営基盤が脆弱な場合もあり、気候変動による影響が事業存続を揺るがす事態にもなりかねません。
脱炭素経営を進めることは、この気候変動リスクに対応し、企業体質をレジリエントなものに変革するための有効な手段となります。
脱炭素経営が企業レジリエンスを高める理由
脱炭素経営が企業のレジリエンス向上に貢献する主な理由は以下の通りです。
- エネルギーコストの安定化: 再生可能エネルギーの導入や省エネルギーの徹底により、化石燃料価格の変動リスクから受ける影響を軽減できます。これはエネルギー供給途絶リスクへの備えにも繋がります。
- サプライチェーンの強靭化: サプライチェーン全体の排出量(Scope 3)削減に取り組む過程で、自社だけでなく取引先の気候変動リスク対応状況も把握する機会が生まれます。リスクの高い取引先との連携強化や代替策の検討を進めることで、サプライチェーン全体の途絶リスクを低減できます。
- 規制強化への対応力向上: 各国・地域で強化される環境規制や炭素税などの導入に早期から対応できる体制を築くことで、将来的な事業活動への制約リスクを回避できます。
- 企業イメージ・信頼性の向上: ステークホルダー(顧客、投資家、従業員、地域社会)からの環境意識が高まる中、脱炭素経営への積極的な取り組みは企業の信頼性やブランドイメージ向上に貢献します。これは、事業継続に必要な支持を得る上で重要な要素となります。
- 新たなビジネス機会の創出: 脱炭素に向けた技術やサービスの開発・導入は、新たな市場ニーズに応え、競争優位性を築く機会となります。
中小企業のためのレジリエンス向上に繋がる脱炭素の取り組み
中小企業がレジリエンス強化の視点を取り入れながら脱炭素経営を進めるための具体的なステップをいくつかご紹介します。
- 気候変動リスクの特定と評価:
- 自社の事業活動やサプライチェーンにおいて、どのような気候変動リスク(物理的リスク:洪水、干ばつなど、移行リスク:規制強化、市場変化など)が存在するかを特定します。
- これらのリスクが事業に与える影響度や発生可能性を評価し、優先順位をつけます。
- 既に策定しているBCP(事業継続計画)に、気候変動リスクの視点を組み込むことを検討します。
- エネルギーの脱炭素化と多様化:
- 自家消費型太陽光発電の導入や、再生可能エネルギー由来の電力メニューへの切り替えなどを検討します。エネルギー源の多様化は、特定のリソースへの依存度を減らし、供給途絶リスクへの耐性を高めます。
- サプライヤーとの連携強化:
- Scope 3排出量の算定に挑戦し、自社の排出量がサプライチェーンのどの部分で大きいかを把握します。
- 主要なサプライヤーと気候変動リスクや脱炭素への取り組みについて対話し、連携してリスク低減策や削減策を進めることで、サプライチェーン全体のレジリエンスを高めます。
- 技術導入による効率化と強靭化:
- エネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入は、エネルギー使用量の最適化だけでなく、異常発生時の早期検知や制御にも役立ち、設備のレジリエンス向上に貢献します。
- デジタル技術(IoT、AIなど)を活用したデータ収集・分析は、リスクの早期発見や対策の効果測定に有効です。
- 情報開示とコミュニケーション:
- 気候変動リスクへの対応状況や脱炭素への取り組みについて、ウェブサイトや報告書等で開示することを検討します。透明性を高めることは、ステークホルダーからの信頼獲得に繋がります。
レジリエンス強化を後押しする支援制度
脱炭素経営やレジリエンス強化に資する中小企業向けの支援制度は複数存在します。
- 省エネルギー投資促進に向けた支援: 設備投資に対する補助金など、エネルギー使用量を削減し、エネルギーコストリスクを低減する取り組みを支援します。
- 再生可能エネルギー導入支援: 太陽光発電などの導入費用に対する補助金や税制優遇措置があり、エネルギー供給の安定化に貢献します。
- サプライチェーン強靭化支援: サプライチェーンのリスク分散や国内回帰などを支援する制度が、間接的に気候変動リスクへの耐性を高める場合があります。
- BCP策定支援: BCP策定に関する専門家派遣やツール提供などの支援を活用し、気候変動リスクを盛り込んだ計画を策定できます。
これらの制度は、脱炭素経営の推進だけでなく、気候変動リスクへの備え、ひいては企業のレジリエンス強化にも活用できる可能性があります。各制度の詳細や申請条件については、中小企業庁や環境省、経済産業省、お住まいの自治体などのウェブサイトをご確認ください。
レジリエンス向上に成功した中小企業の事例(類型的な事例)
具体的な企業名ではなく、取り組みの類型としてご紹介します。
- 事例1:エネルギー自立度を高め、災害時も事業継続
- 製造業の中小企業が、工場の屋根に自家消費型太陽光発電システムと蓄電池を導入。平常時は電力コスト削減に貢献するとともに、非常時には事業継続に必要な最低限の電力を確保できるようになり、地域の災害レジリエンス向上にも貢献。
- 事例2:サプライヤーとの連携でScope 3削減とリスク共有
- 食品関連の中小企業が、主要な原材料サプライヤーと連携し、生産・輸送プロセスでの排出量削減目標を共有。同時に、サプライヤーの気候変動リスク(例えば、特定の地域の異常気象による農産物の不作リスク)について情報交換を行い、調達先の分散や代替供給ルートの検討を共同で実施。
- 事例3:デジタル技術でリスク管理と効率化を両立
- 物流・倉庫業の中小企業が、倉庫内の温度・湿度管理にIoTセンサーを導入。商品の品質保持に貢献するとともに、気候変動による極端な温度変化リスクをリアルタイムで把握・予測し、必要な対策(換気、空調調整など)を講じる体制を構築。
これらの事例は、脱炭素への取り組みが、単なる環境対策に留まらず、企業の事業継続性やリスク対応能力を高める「攻め」の経営戦略となり得ることを示しています。
まとめ:脱炭素経営は未来への投資
脱炭素経営は、規制対応や社会的責任という側面だけでなく、企業のレジリエンスを高め、予期せぬリスクから事業を守るための重要な経営戦略です。特に、気候変動が現実の脅威となる中で、この視点は中小企業にとってますます不可欠となっています。
これまでの基本的な省エネ対策から一歩進み、気候変動リスクの評価、サプライチェーン全体での対応、デジタル技術の活用、そして利用可能な支援制度の活用などを通じて、脱炭素経営をレジリエントな企業体質を築くための未来への投資として位置づけてみてはいかがでしょうか。経営企画担当者として、自社の持続的な成長と企業価値向上に向けて、ぜひこの視点を取り入れてみてください。