中小企業向け:働き方改革がもたらす脱炭素経営の効果と実践方法
働き方改革がもたらす脱炭素経営の可能性
多くの企業で推進されている働き方改革は、生産性向上や従業員満足度向上だけでなく、実は脱炭素経営においても重要な役割を果たす可能性を秘めています。特に、基本的な省エネ対策は実施済みで、さらに一歩進んだ脱炭素経営を目指す中小企業にとって、働き方の見直しは次の有効な一手となり得ます。
このアプローチは、単にエネルギー消費量を削減するだけでなく、サプライチェーン全体(Scope 3)における排出量削減にも貢献し、企業活動そのものの質を高めながら環境負荷を低減することを目指します。本記事では、働き方改革が脱炭素経営にどう繋がるのか、具体的な取り組みとその効果測定方法、実践のポイントについて解説します。
働き方改革が脱炭素経営に貢献するメカニズム
働き方改革における代表的な取り組みと、それが脱炭素にどう影響するかを以下に示します。
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リモートワーク・テレワークの推進:
- CO2排出量削減効果: 従業員の通勤に伴う移動(自動車、公共交通機関)によるCO2排出量を大幅に削減できます。オフィスへの移動が減ることで、車両燃料の消費や公共交通機関のエネルギー使用量が減少します。
- オフィスにおけるエネルギー消費削減: オフィスに出社する人数が減れば、オフィスの照明、空調、PCなどのエネルギー消費を削減できます。適切なオフィス運用(例:一部フロアの閉鎖、照明・空調の間引き運転)と組み合わせることで、削減効果を高められます。
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ペーパーレス化の推進:
- CO2排出量削減効果: 紙の製造、輸送、廃棄に伴うCO2排出量を削減できます。印刷に伴う電力消費や、プリンター、シュレッダーなどの機器の使用も削減されます。
- 資源循環への貢献: 紙資源の使用を削減することで、森林資源の保護や水資源の保全にも貢献します。
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ウェブ会議・オンライン会議の活用:
- CO2排出量削減効果: 出張や移動に伴う交通手段(飛行機、新幹線、自動車など)からのCO2排出量を削減できます。特に遠距離の移動が不要になるため、削減効果が大きい場合があります。
これらの働き方改革は、従業員の通勤負担軽減や業務効率化といった本来の目的を達成しつつ、副次的に脱炭素への貢献を果たすことができます。
働き方改革による脱炭素効果の測定と可視化
働き方改革が脱炭素経営にどの程度貢献しているかを把握するためには、効果の測定と可視化が重要です。
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CO2排出量削減効果の算定:
- 通勤: リモートワークによる通勤回数や移動距離の削減量に基づき、交通手段ごとの排出係数を用いてCO2排出削減量を算定します。
- オフィスエネルギー: リモートワーク導入前後でのオフィスにおける電力消費量やガス消費量の変化から削減量を算定します。
- 紙使用量: ペーパーレス化による印刷量や紙購入量の削減量から、紙のライフサイクル排出量を考慮して削減量を算定します。
- 出張・移動: ウェブ会議等による出張・移動の削減距離に基づき、交通手段ごとの排出係数を用いてCO2排出削減量を算定します。
これらの算定には、既存のCO2排出量算定ツールやサービスを活用することが有効です。多くのツールは、エネルギー使用量や移動距離などのデータを入力することで、自動的にCO2排出量を計算し、可視化する機能を備えています。働き方に関するデータをこれらのツールと連携させることで、取り組みの効果をより正確に把握できます。
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可視化と報告: 算定した削減効果をグラフや数値で分かりやすく可視化し、社内外に報告することで、取り組みの意義を共有し、さらなる推進に繋げることができます。従業員一人ひとりの通勤削減効果などを共有することも、意識向上に繋がります。
働き方改革を脱炭素経営に繋げる実践のポイント
働き方改革を単なる効率化で終わらせず、脱炭素経営の一環として効果的に実践するためのポイントを挙げます。
- 明確な目標設定: 働き方改革によるCO2削減目標を設定し、具体的な取り組み(例:「リモートワーク率〇〇%達成」「年間紙使用量〇〇%削減」)に落とし込みます。
- IT環境の整備: リモートワークやペーパーレス化を支えるITインフラ(高速な通信環境、クラウドサービス、セキュリティ対策、電子署名システムなど)を整備します。IT知識の高い担当者が主導することで、スムーズな導入が期待できます。
- ルールの策定と周知: リモートワーク規定、ペーパーレス運用のルール、情報共有のガイドラインなどを明確に定め、従業員全体に周知徹底します。
- 従業員の意識改革と協力促進: 働き方改革が個人のメリットだけでなく、環境負荷低減にも貢献することを説明し、従業員の理解と協力を得ます。アンケートやワークショップを通じて、従業員の声を反映させることも重要です。
- 効果の定期的評価と改善: 定期的に取り組みの効果(CO2削減量、コスト削減額、従業員満足度など)を評価し、課題があれば改善策を講じます。
- サプライヤーへの展開検討: 自社の働き方改革の経験を活かし、可能であればサプライヤーにも同様の働き方やITツールの活用を促すことで、サプライチェーン全体の排出量削減に貢献する視点も持つことができます。
まとめ
働き方改革は、中小企業にとって生産性向上やコスト削減といった直接的な経営メリットに加え、脱炭素経営を推進するための有効かつ現実的なアプローチです。リモートワーク、ペーパーレス化、ウェブ会議といった取り組みは、通勤、オフィスエネルギー、紙使用、出張に伴うCO2排出量を削減する効果が期待できます。
これらの効果を正確に測定・可視化し、継続的に改善していくことで、働き方改革は企業の脱炭素経営を着実に前進させる力となります。既に基本的な省エネに取り組んでいる企業は、次のステップとして、ITの知見を活かせる働き方改革を通じた脱炭素経営の実践を検討してみてはいかがでしょうか。