中小企業向け:データとデジタル技術で実現する高度な脱炭素経営
はじめに:脱炭素経営の次なるステップへ
中小企業においても、脱炭素経営への取り組みは喫緊の課題となっています。基本的な省エネ対策や再生可能エネルギーの導入検討など、既に一歩を踏み出している企業も少なくないでしょう。しかし、持続可能な社会の実現に貢献し、同時に企業価値向上を目指すためには、より戦略的で高度なアプローチが求められています。
特に、IT分野に強みを持つ企業や、データに基づいた経営判断を重視する企業にとって、デジタル技術は脱炭素経営を加速させる強力なツールとなり得ます。本記事では、データとデジタル技術を活用し、脱炭素経営をより効果的、かつ体系的に推進するための方法について解説します。
なぜデータとデジタル技術が必要なのか
脱炭素経営におけるデータとデジタル技術の活用は、主に以下の目的のために重要となります。
- 現状の正確な把握: エネルギー使用量やCO2排出量をリアルタイムかつ詳細に把握し、排出源を特定します。
- 効果の可視化と測定: 実施した対策の効果を定量的に測定し、投資対効果を評価します。
- 最適化と効率化: データ分析に基づき、最も効果的な削減策や運用方法を見つけ出します。
- サプライチェーン管理: Scope 3排出量など、自社以外の排出量もデータ連携により把握・管理します。
- 意思決定の迅速化: 根拠に基づいた迅速な経営判断を支援します。
- 報告・開示の効率化: 必要なデータを体系的に管理し、外部への報告・開示プロセスを効率化します。
脱炭素経営に活用できる主なデジタル技術と応用例
中小企業でも比較的導入しやすい、あるいは導入が進んでいるデジタル技術と、その脱炭素経営における応用例をご紹介します。
1. エネルギーマネジメントシステム(EMS)の高度化
既に導入している、あるいは導入を検討しているEMSに、より高度な機能や連携を付加することで、さらなる省エネ・創エネ効果が期待できます。
- AI/機械学習による予測制御: 過去のデータ、天候予測、稼働状況などを分析し、AIが最適な空調や照明の運転スケジュールを自動で提案・実行します。
- リアルタイムデータ収集: 既存設備にIoTセンサーを取り付け、きめ細かな電力消費データを収集・分析することで、無駄な消費箇所を特定します。
- 複数拠点の一元管理: クラウド型EMSを活用し、複数の事業所や店舗のエネルギー使用状況を一元管理・比較分析します。
2. サプライチェーン排出量(Scope 3)のデータ連携・管理ツール
自社の排出量(Scope 1, 2)に加え、サプライチェーン全体の排出量(Scope 3)の把握は、脱炭素経営の次のステップとして不可欠です。
- クラウドベースの算定・可視化ツール: 購買データ、物流データなどを入力・連携することで、サプライチェーン上での排出量を自動で算定・可視化します。
- 取引先とのデータ連携プラットフォーム: 安全かつ効率的に取引先と排出量データを共有・集計できるプラットフォームの活用を検討します。
- ブロックチェーン活用(将来展望): データの信頼性を担保しつつ、サプライチェーン全体での透明性の高い排出量トラッキングを実現する可能性が研究されています。
3. CO2排出量算定・可視化ツールの高度な活用
基本的な算定機能に加え、以下のような機能を持つツールを活用することで、より戦略的な分析が可能になります。
- 削減シミュレーション機能: 特定の省エネ設備を導入した場合や、運用方法を変更した場合の排出量削減効果を事前にシミュレーションします。
- 目標管理・進捗追跡: 設定した削減目標に対する現在の進捗をリアルタイムで把握し、遅延があればアラートを発する機能。
- 各種報告フォーマット対応: CDP、TCFD、RE100など、外部報告フレームワークに合わせた形式でのデータ出力機能。
4. その他デジタル技術の活用例
- デジタルツイン: 仮想空間に事業所や工場のデジタルモデルを構築し、様々な省エネ施策や設備配置のシミュレーションを行います。
- 業務プロセス効率化ツール: ペーパーレス化、オンライン会議の活用、テレワーク推進など、直接的・間接的な排出量削減につながる業務効率化を図ります。
- AIによる画像解析: ドローンやセンサーで取得したデータ(例:太陽光パネルの異常検知、設備の劣化診断)をAIで解析し、メンテナンス最適化によるエネルギー効率維持・向上に繋げます。
導入に向けたステップと留意点
データとデジタル技術を活用した高度な脱炭素経営は、以下のステップで進めることが考えられます。
- 現状分析と目標設定: 既存のエネルギー使用状況やCO2排出量を詳細に分析し、デジタル活用によって何を達成したいのか、具体的な目標を設定します。(例:エネルギー使用量○%削減、Scope 3排出量の見える化範囲拡大など)
- 必要なデータの特定: 目標達成のために、どのようなデータが必要か、どこから収集できるかを特定します。(例:各機器の稼働データ、電力・ガス・水道の請求データ、輸送データ、購買データなど)
- ツールの選定と導入: 収集したいデータや実現したい機能に合わせて、最適なデジタルツールやシステムを選定・導入します。中小企業向けのサービスや、初期投資を抑えられるクラウド型サービスも多数提供されています。
- データ収集・連携体制の構築: センサー設置、既存システムとのAPI連携、手入力ルールの整備など、継続的にデータを収集・連携する体制を構築します。
- 分析と施策実行: 収集したデータを分析し、削減ポテンシャルの高い領域を特定します。分析結果に基づき、運用改善や設備投資などの具体的な施策を実行します。
- 効果測定と改善: 導入したツールや実施した施策の効果を定期的に測定・評価し、必要に応じて目標や施策を見直します。
留意点:
- スモールスタート: 最初から大規模なシステムを導入するのではなく、特定の拠点や部署、あるいはScope 3の一部のカテゴリに絞ってスモールスタートし、段階的に展開することが有効です。
- 既存システムの活用: 既存の基幹システムや管理システムとの連携を検討し、新たなシステム導入に伴う負担を軽減します。
- 人材育成: デジタルツールを使いこなし、データ分析を行うための社内人材育成や、外部専門家の活用も視野に入れます。
- 費用対効果: 導入コストだけでなく、運用コストや期待される削減効果、それに伴うコスト削減効果を総合的に評価します。
中小企業が活用できる支援制度
デジタル技術の導入や脱炭素経営に関する取り組みに対して、様々な補助金や支援制度が存在します。
- 省エネ設備導入補助金: エネルギー効率の高い設備(高効率空調、LED照明、産業ヒートポンプなど)や、それと連携するEMSの導入を支援する国の補助金や自治体の制度。
- IT導入補助金: 中小企業の業務効率化やDX推進を目的とした補助金で、脱炭素経営に関連するクラウドツールやソフトウェアの導入にも活用できる場合があります。
- 再生可能エネルギー導入支援: 太陽光発電や蓄電池などの導入に対する補助金。
- 脱炭素経営推進に関する支援: 脱炭素経営計画策定支援、専門家派遣、低利融資制度など、総合的な取り組みを支援する制度もあります。
これらの制度は年度によって内容や要件が変動するため、常に最新の情報を確認することが重要です。
まとめ:デジタルで競争優位性を築く脱炭素経営
データとデジタル技術を活用した脱炭素経営は、単なる環境対策に留まらず、エネルギーコストの削減、業務効率の向上、サプライチェーン全体の最適化、そして企業イメージの向上といった様々なメリットをもたらし、競争優位性を築く上で重要な要素となります。
ITに馴染みのある経営企画担当者の皆様にとって、デジタル技術は脱炭素経営を深化させるための有力な武器です。現状の課題や目標に合わせて、本記事で紹介したようなデジタル技術の活用をぜひ検討してみてください。無理のない範囲でスモールスタートし、データに基づいた意思決定を行うことで、持続可能な企業への変革を着実に進めることができるでしょう。