脱炭素経営の効果を見える化!中小企業向け測定・報告の重要性と具体的なステップ
脱炭素経営における効果測定と報告の重要性:次のステップへ進むために
中小企業の皆様が脱炭素経営に取り組むことは、今や環境への貢献だけでなく、企業の持続的な成長に不可欠な要素となりつつあります。エネルギーコストの削減や基本的な省エネ策は既に実施されている企業も多いかもしれません。しかし、さらに一歩進んだ、経営戦略としての脱炭素経営を推進するためには、その「効果を測定し、適切に報告する」ことが非常に重要になります。
効果測定と報告は、単に規制や取引先の要求に応えるためだけではありません。自社の取り組みがどの程度進んでいるのか、どのような成果が出ているのかを定量的に把握することで、次のアクションの精度を高め、投資対効果を最大化することができます。また、測定・報告のプロセス自体が、社内の意識改革や新たな改善点の発見につながることも少なくありません。
このプロセスを適切に進めることで、企業価値の向上、競争優位性の確立、そして新たなビジネス機会の創出へと繋がっていくのです。
なぜ効果測定・報告が必要なのか? 多角的なメリット
脱炭素経営における効果測定と報告は、以下のような多角的なメリットをもたらします。
- 取り組みの進捗と効果の正確な把握: 計画通りに進んでいるか、実施した施策が期待通りの効果を上げているかを確認できます。これにより、効果の低い施策を見直し、より効果的な施策にリソースを集中させることが可能になります。
- 経営判断の質の向上: 定量的なデータに基づき、脱炭素関連の投資判断や事業戦略の意思決定を行うことができます。
- 社内外への説明責任と信頼性の向上: ステークホルダー(従業員、顧客、取引先、金融機関、地域社会など)に対し、自社の脱炭素への真摯な姿勢と実績を示すことができます。これにより、企業の信頼性やブランドイメージが高まります。
- 資金調達や取引機会の拡大: 金融機関からの融資や、大手企業からの取引において、脱炭素への取り組み状況や情報開示が重視される傾向が強まっています。適切な報告は、これらの機会を掴む上で有利に働きます。
- リスク管理と機会創出: 気候変動に関連する物理的・移行リスクを特定し、管理体制を構築するとともに、脱炭素市場における新たな事業機会を発見する手がかりとなります。
効果測定の対象と具体的なステップ
脱炭素経営の効果測定において中心となるのは、CO2をはじめとする温室効果ガス(GHG)排出量の算定です。
測定対象
GHG排出量の算定は、一般的に以下のスコープに分類されます。
- Scope 1: 事業者自らの直接排出量(燃料の燃焼、工業プロセスなど)
- Scope 2: 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出量
- Scope 3: 事業者の活動に関連する、Scope 1, 2以外の間接排出量(原材料調達、製品輸送、従業員の通勤、廃棄物など)
基本的な省エネは主にScope 1とScope 2の削減に繋がりますが、次のステップとして重要なのがScope 3の算定と削減です。サプライチェーン全体での排出量削減は、取引先との連携を深め、新たな協業の機会を生み出す可能性も秘めています。
具体的な測定ステップ
- 算定範囲の定義: どの事業所、どの期間、そしてどのスコープ(Scope 1, 2から始めるか、Scope 3のどこまで含めるか)を対象とするかを定めます。中小企業の場合は、まずはScope 1と2から着手し、徐々にScope 3へと範囲を広げていくのが現実的です。
- データ収集: 定義した範囲に基づいて、エネルギー使用量(電気、ガス、燃料の種類ごとの使用量)、廃棄物量、出張・通勤距離、購入した製品・サービスの金額など、必要なデータを収集します。
- 排出量算定: 収集した活動量データに、環境省などが公表している排出係数(活動量あたりのCO2排出量)を乗じて、GHG排出量を算出します。
- 可視化と分析: 算定した排出量を、部門別、排出源別、スコープ別などに分類・整理し、グラフなどで可視化します。これにより、どこから多くの排出が出ているのか、削減ポテンシャルが高いのはどこかを特定できます。
- 目標設定と比較: 算定結果に基づき、具体的な削減目標を設定します。過去の実績と比較することで、取り組みの効果を確認します。
報告の実践:何を、どのように伝えるか
効果測定によって得られた情報を、社内外の関係者に向けて適切に伝えることが報告です。
報告内容に含めるべき要素
- 脱炭素経営に関する基本的な方針・目標
- GHG排出量の算定結果(スコープ別、経年変化など)
- 実施した削減施策とその効果
- 気候変動に関連するリスクと機会の認識
- 今後の削減計画・目標
報告のフレームワークと方法
- 社内報告: 部門別の排出量や削減目標に対する進捗を共有し、全社的な意識向上や改善活動に繋げます。
- 外部報告:
- ウェブサイト: 脱炭素への取り組みを紹介するページを設けるのが一般的です。算定結果の概要や具体的な施策、今後の目標などを分かりやすく掲載します。
- 統合報告書/CSR報告書: 企業の財務情報と非財務情報(環境、社会、ガバナンス)を統合して報告する形式です。中小企業でも、経営戦略としての脱炭素の位置づけを示す上で有効です。
- 取引先への報告: サプライチェーンの一員として、排出量データや取り組み状況を取引先に共有します。
- 自主的な開示フレームワーク: CDPR(サプライヤー向けのCDP質問書)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく開示など、より高度なフレームワークへの対応は、資金調達や大企業との連携を考える上で将来的な目標となり得ます。まずは簡易的な社内報告やウェブサイトでの情報公開から始めるのが良いでしょう。
無理なく始めるためのポイントとツール活用
脱炭素経営の効果測定と報告は、専門的な知識が必要に思えるかもしれませんが、中小企業でも無理なく始める方法はあります。
- スモールスタート: 最初から完璧を目指す必要はありません。まずはScope 1と2の排出量算定から始め、自社の活動を可視化することに注力します。データ収集しやすい範囲から取り組むことが重要です。
- 既存ツールの活用: 既に導入している会計システムや生産管理システムなどに蓄積されているエネルギー使用量データなどを活用できないか検討します。ITに強いペルソナの企業であれば、これらのシステム連携やデータ活用の経験を活かせる可能性があります。
- 脱炭素経営支援ツールの導入: GHG排出量の算定・可視化を効率化するためのSaaSツールなどが多数提供されています。これらのツールは、データの入力補助、排出量の自動計算、レポート作成機能などを備えており、専門知識がなくても取り組みやすいものがあります。ツールの選定にあたっては、自社の事業規模や測定したい範囲(特にScope 3への対応状況)、使いやすさ、コストなどを比較検討することが重要です。
- 外部専門家や支援機関の活用: 脱炭素経営コンサルタントや、地域の商工会議所、自治体などが提供する支援プログラムを利用するのも有効です。専門家の知見を借りることで、より正確かつ効率的に測定・報告を進めることができます。また、関連する補助金や優遇制度に関する情報も得られる可能性があります。
結論:効果測定・報告は脱炭素経営の羅針盤
脱炭素経営の効果測定と報告は、一度きりのタスクではなく、継続的な改善活動の基盤です。現状を正確に把握し、成果を可視化し、適切に伝えることで、自社の脱炭素経営を次のレベルへと確実に進めることができます。
最初の一歩は小さくても構いません。まずは自社のエネルギー使用量や活動量を把握し、簡単なGHG排出量算定から始めてみてください。そして、その結果を社内で共有することから報告を始めてみてはいかがでしょうか。
適切な測定と報告は、企業の信頼性を高め、新たなビジネスチャンスを呼び込み、持続可能な社会の実現に貢献するための強力な羅針盤となるはずです。